ところが、日本の銀行は不良債権を厳格に査定せず、貸倒引当金を十分に積んでこなかった。
適切な処置がなされないまま放置されてきたのは、銀行の経営者が自分のミスを認めて責任を取りたくなかったからだ。 さらに言うと、銀行を監督する立場にあった金融庁も、過去の『不作為の罪」を指摘されるのを恐れて、断固たる態度を取ってこなかった。
「資産査定の厳格化」「自己資本の充実」「ガパナンスの強化」のT三原則が金融再生プログラムの基本コンセプトだという。 本来であれば、目一杯積めたとしても一年分しか認められないところを、彼ら(大手銀行)は『(赤字は)一時的だ』と称して背伸びして五年分を積んでいる。
Tチームは米国で導入されている「今後一年間に見込まれる課税所得をもとに一年以内に実現される繰り延べ税金資産の額」を自己資本に算入する案を打ち出した。 だが、大手銀行は猛然と反撃に出た。
赤字であっても特例として繰り延べ税金資産の五(A・C刊)の中で次のよう年分を自己資本に組み入れることが認められていたのが一年分しか算入できなくなれば、自己資本は大きく目減りして資本過小に転落するからだ。 当時のZ銀行協会の協会長だったTは「サッカーのルールが突然アメリカンフットボール(アメフト)に変更になった感じだ」という表現で、基本ルールの変更に異論を唱えた。

U銀行の頭取だったTの発言は思いつきの域を出ない。 Uが攻め込まれ、Tチームにタッチダウンを奪われ、消滅するとは露ほども思っていなかったのだから。
銀行の猛反対で結局一年分の算入は見送られたが、時限爆弾は、そのまま残った。 Tプランの推進者にとって、Rへの公的資金の注入は、明らかに成果である。
しかし、T・金融庁の画一的なマニュアル行政は失政以外の何ものでもなかったという、反論が当然出る。 大手銀行からの資金の流れが枯渇して、貸し渋り、貸し剥がしが加速するだけでなく、中小企業向けのノンバンクや投資会社の資金も干上がってしまった。
幻のS・T・A連合「T銀行とA銀行の統合に、S銀行も加わっていただけませんか」。 二000年にT銀行会長のNは、S銀行・東京本部ビル(東京・大手町)の頭取室にM頭取を訪ねた。
一九九八年九月に公表されたT銀行とA銀行の経営統合は、「Mフィナンシャルグループ」、「MS銀行」というメガ(巨大)バンクが相次いで誕生し、いつしか、存在感を失ってしまっていた。 経営規模で大きく劣るだけではない。
実は両行の経営統合のための、具体的な交渉は暗礁に乗り上げていた。 事態の打開を図るために、D銀行にも提携を申し入れ、D銀頭取のKと協議を続けていた。
しかし、二000年に入り、T銀とD銀の首脳同士の協議は不調に終わった。 D銀が交渉のテーブルから降りたのである。
T銀行から経営統合を申し込まれたS銀行も、MやMS銀に対する有効な対抗手段がみつからず、行内では「他の大手銀行との統合推進」派と「単独生き残り」派の意見がせめぎ合っていた。 もし、経営統合するとすれば、現実的にはTM銀行と東海・A連合しか選択肢はない。
その意味では、T銀行のNがS銀に経営統合を打診してきたのは、絶好のタイミングだったといえる。 A銀行は三行統合に賛成だった。

S銀頭取のM、T銀頭取の0、A銀頭取のIの三人が経営統合で合意した。 三行の経営統合が正式に発表されたのは二000年三月一四日。
三行の頭取は「首都圏、中部圏、関西圏の三大都市圏で圧倒的なリテールの基盤を持つ銀行になる」と発表会見で口を揃えた。 しかし、「S・T・A連合」は発表からわずか三ヵ月後に瓦解する。
A銀行が離脱したのだ。 S銀とT銀の主導で進む統合交渉に、A銀の内部に不満がたまっていった。
六月一五日午後。 A銀頭取のIはN銀本店の記者クラブで会見し、S銀、T銀との経営統合を白紙撤回すると発表した。
理由を問われたIは「(経営)哲学の違いだ」とのみ答えた。 その一時間後、S銀、T銀も頭取がS銀・東京本部で共同記者会見し、三行統合を白紙に戻して「S・T」の両行が合併すると発表した。
「S銀・T銀連合」はその後、S銀と関係の深いT信託銀行を加えてUグループを結成する。 一方、A銀行は新たな再編相手を求めて迷走し、二00三年三月にD銀行との経営統合に、ようやく辿り着くのである。
交渉窓口は専務のSだった。 長い迷走の末にA銀が命運を託した相手は、何度も経営統合を交渉し、だが毎回、うまくいかなかったD銀だった。

「地方銀行との話し合いには手応えを感じている」。 A銀頭取のIは、離脱会見でこのように示唆した。
だが、S銀との経営統合を話し合う際に、A銀が強い警戒感を示したように、地銀側が自行より規模の大きい、A銀を警戒するのは、しごく当然のことだった。 Y銀行はA銀の誘いに乗らなかった。
Y銀行やT銀行が懸念していたのは、A銀の隠れ不良債権の存在だった。 こんなシーンもあった。
「A銀行に出資してもらえませんか」。 A銀頭取のIはTM銀行頭取の三Kを訪ねて、こんな要請をした。
MT・グループとの資本提携をテコに、株式市場の一部に広がっていたA銀行の信用不安説を取り除くのが狙いだった。 ここでもMの答えは「ノー」。
前後して、A銀は、米G・Sの仲介で0との統合交渉に入った。 IがD銀頭取のKを大阪のD銀本店に訪ねたのも夏の暑い盛りだった。
A銀行の内部では、旧・K銀行派と旧・S銀行派が別々の再編のシナリオを描いて、手当たり次第、粉をかけていた。 合併の交渉の窓口も旧・S銀行出身のHに一本化されていたわけではなく、「誰が本当の交渉相手なのかわからない、混沌とした状態だった」(提携を申し込まれた地方銀行の頭取)。
A銀頭取のIは0との統合に望みをつないでいたようだつた。 0が出資するならば、「自分は辞任し、トップを0会長のMさんにやってもらってもいい」。
思いつきとばかりはいえない話を周囲に漏らしていた。 総資産が五・五兆円の0が三0兆円を超すA銀行に資本参加すれば、米国の格付け会社の格下げは避けられないだろう。
対米重視の0の経営に与える影響はきわめて大きかった。 金融庁にとって、再編から取り残されているD銀と、A銀は頭痛の種だった。

D銀と、A銀には旧財閥系企業のような後ろ盾がまったくない。 それでも、両行が手を握り合えば、都市銀行の再編は一応、完了する。
金融庁長官を務めたMが、A銀首脳にD銀との統合を勧めたという情報も乱れ飛んでいた。 「A銀、D銀に経営統合申し入れ、地域連合めざすNK新聞が二00一年九月七日の夕刊でこう報じた。
A銀は「当方から申し入れ、検討をいただいている」とのコメントを出し、D銀も「申し入れを受け検討中」と前向きの反応を見せた。 A銀は合併交渉の長期化など(の不手際)を理由に一0月末にIが頭取を辞任。
その後を受けてHが頭取に昇格した。 Hは経営統合までの五ヵ月間の暫定H頭取になった。
D銀NY支唐の巨額損失事件パプル経済の崩壊は、脆弱な経営基盤にあったD銀行を直撃した。 D銀のその後を決定づけるのは、一九九五年に発覚したニューヨーク(NY)支局の巨額損失事件だった。
米国債の取引による総額二億ドル(約二00億円)の損失が発生していたのに、一0年余にわたって隠し続けてきた。


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